みのミュージックのことを俺は応援している、いるのだが…/音楽を言葉で表現する難しさ

みなさんなら「みのミュージック」という、音楽系youtubeチャンネルをご存じだと思いますが、私、基本的に嫌いではありません。

音楽、特にロックミュージック全般のジャンルや歴史の解説をするyoutuber、それって自分が先にやりたかったことだったし、見てみたら俺なんかよりメチャクチャ知識がある方だったし、こりゃあ勝てねえわって感じだし(私は動画編集とか出来ないし)、ロックの歴史解説回を見ても特にイチャモンをつける部分もありません(なんなら有名サイト「一般教養としてのロック史」よりもみの氏の歴史観のほうが私に近いのでおススメです)。

 

しかし、一点だけ気になるところがありまして(以下全てイチャモンです)。

彼はよく「クオリティが高い」(質が高い)っていう言葉を使うじゃないですか。

その「クオリティ」って何を指してるの?って思うんですよね。

私が、音楽を語る際に「クオリティ」って言葉を使うのが苦手なだけなんですが。具体性が何もないように聞こえてしまうのであまり使わないようにしているんです。

例えばこの動画。Nirvanaの曲をAIが作りました、それを聴いてみましょうという動画です。

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この動画ではAIが作曲したNirvana風の曲を2つ聞くのですが、一つ目に対して「ありそうだけど、正直曲としてのクオリティはちょっと低い」と評し、それに対して2つ目は「こっちのほうが質高いんだけどより引用から成り立っている感じ」と評しているんですよね。言っていることは理解出来るんだけど(同意する部分も多い)その「クオリティ」「質」ってポップさ・メロディのキャッチーさのことなの?ってちょっと思ってしまったので。1つ目は、終始陰鬱な雰囲気でメロディもそこまでキャッチーではない(正直、みの氏が言うように「本当の未発表曲だったらお蔵になるのもわかる」みたいな感覚はわかる)が、「You Know You're Right」のなりそこないみたいな雰囲気は感じる。で、2つ目はカートコバーンのポップセンスが発揮された(?)系統の曲で、さらに(「こっちのほうがミックスいいかもね」とみの氏も言っているように)『Nevermind』っぽい音作りになっている。で、僕も個人的な好みで言えば2つ目のほうが好きだし、正直1つ目の曲が「印象に残らなかった」のは同意なんだけど、それってポップでキャッチー/それに見合ったNevermind的音作りってだけじゃないの?1つ目の曲に関しても、「カートのポップセンス」以外の部分の「Nirvanaらしさ」はちゃんとあったと私は感じたので、みの氏の「クオリティ」って「ポップでキャッチー」だって意味なの?それはどうなの?と思う訳です。

まぁここまで「みの氏の発言の意図を理解している」のにイチャモンつけるのもしんどくなってきましたが(苦笑)「クオリティ」とはなんぞや?という話なんですよ。「完成度」という言葉もそれに近いかもしれませんが。

じゃあね、Nirvanaだったら『Nevermind』『In Utero』のどちらが「クオリティ」が高いか、って言われたら『Nevermind』って答えるんか?「クオリティ」が「ポップでキャッチー」という意味なら、さ。いや答えたっていいんですよ。いいんですけど、「どちらが好きか」「どちらがより素晴らしいと思うか」「どちらのほうが歴史的に重要か(どちらがより名盤か、という問いもこれに近いかもしれん)」とかなら全然わかるんですけど。「質」というのは、「メロディーがキャッチー」か、「ポップか」はたまた「メジャーっぽいミックス/音作りか」みたいな意味合いだけを指す言葉なんでしょうか?みたいな疑問が、僕には常に付きまとっているんですよ。

 

他の動画でもたしかよく「クオリティ」という言葉で説明している動画があると思います。

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こちらは、「質の高い」という言葉を使っていますね。

 

例えば、youtuberの動画を見て「この人、動画のクオリティ上がったよね」みたいな話で「クオリティ」という言葉を使用するのはわかるんですよ。音声が聴き取りづらかったり、画面が暗かったり、編集されてなかったりする動画から、そういうものが改善されて編集技術も上がった、と。そういうことを指しているのが分かるからです。

芸術においても、本物そっくりに描く写実的な絵画みたいなジャンルだったら、「この画家は初期にくらべると今はクオリティ高いね」みたいな言い回しが出来ると思うんです。

でも、こと音楽(特にロック・ミュージック)において、先ほど挙げた「ポップでキャッチー」とか「メジャーっぽいミックス」とか、もしくは「演奏が上手い」でも良いんですけど、そういう要素って必ずしも作品の良し悪し・素晴らしさとリンクしないこともたくさんあるわけじゃないですか。演奏も上手くなくて、ミックスもザラザラしてて歌が聴き取りにくいけど、でもそのバンドの音楽性の芯の部分・もしくは初期衝動を上手く封じ込めたファーストアルバム、みたいなものが評価されている例は沢山あるわけです。じゃあそういう作品は「クオリティは低い」と言ってしまうのか、言えてしまうのか。それともポップだの上手いだのということ以外の要素を加味して総合的に「クオリティ」という概念が形成されているのでしょうか。じゃあそれ以外の要素をちゃんと説明しなきゃいけなくないですか?それくらい私は「クオリティ」という言葉は、あいまい過ぎて、使う時気を付けなきゃいけない語じゃないかと思っているわけです(そういう作品を褒める時は「クオリティ」という言葉を使わなければいいだけの話でしょう、というのも一理ありますが…)。

 

「完成度」という言葉なら良いか?というのは、これまた厳密には=ではないので難しいのですが。例えば「レッド・ツェッペリンは『Ⅳ』で音楽性が完成された」という使い方は成立すると思うからです。その前にアルバムは様々な音楽要素…たとえばブルースやフォークというものが未整理だったり、誰かのエピゴーネンだったりした。でも『Ⅳ』は自分たちの音楽として消化されている。みたいな意味で、言えるとも思うんですね(何度も言うが「例え」です)。完成度=完成された ではないんだけど、この場合、「レッド・ツェッペリン『Ⅳ』は完成度が高いアルバムだ」とは、ニアリーイコールで言えてしまうのではないか、と思うのですね。

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この動画は「完成度」の意味合いで「クオリティが高い」って言ってるな…。あんまり批判できないか…。 

 

話がそれましたが、なんでここまで「クオリティ」という言葉に拘るかというと、先ほども言った通り、「ポップでキャッチーで上手く出来ている」みたいな意味合い=クオリティだとすると、初期衝動を詰め込んだ作品や、そこには本質は無いタイプの音楽家の作品を見逃すことになるのではないか?ということなんですよ。で、こんなことみの氏がわかっていないわけがないんです。

わかりやすく、手っ取り早く、そして十数分の動画にまとめ上げるために(細かい説明をしている暇はない)、初心者・入門編として語っているのは十分わかっているのですが、そこ気にならないのかな…?という疑問があるのでした。という話です!!!!すみませんでした!100%みのミュージックに対する嫉妬です!!

 

まぁほんと正直言うと、「あのアルバムはクオリティ高いよね」とか言う人って音楽を体系的に理解してない人とか音楽を言葉で説明するのが得意ではない(より感覚的な人)に多い印象(あくまで印象)があって(偏見)(そういう音楽系youtuberやアマゾンレビューあるよね…?)ようはそういうの耳にすると毎回毎回「(クオリティって何だよ…具体的に言ってみろよ…何もわかってねーな…)」とか思っちゃうんですけど、動画を見る限りみの氏がそういうタイプの人とは思えないんですよね。俺の500万倍、体系的知識があって、かつ演奏者としての視点もはるかにある。そういう方が、いくら10数分の動画とはいえ、その表現はもったいなくない…?と思った次第です(本当にお前は誰目線で語ってんだ案件ですね…)。

 

で、ここまで書いたんですけど、俺も「これはまず、良い曲だから」とか言うけど「良い曲」って何?歌メロがポップでキャッチーだったらお前良い曲って言ってない?でもお前そうじゃない曲も良い曲って言ってるよね?その境界線はどこ?って言われたら何も言えないし、そもそも「ポップ」や「キャッチー」というのも何をどうなってたらそうなのか具体的な根拠を出して説明しろと言われればしんどいし、「演奏が上手い」もじゃあ正確にギター速弾きできる=上手いなのか?本当にそれだけか?みたいな話になるし(俺はよく黒人音楽やシティポップのバックの演奏の「上手さ」があまり分かってないところがある)、最近「優れている」とか「ポップソングとしての強度」とか言いがちなんだけどいったいどういう意味?って話だし、挙句の果てに「エモい」も言っちゃうし、音楽を言葉で説明するのってどこまでやればいいんですかね。難しいですね…。という落とし前でよろしでしょうか。

 

 

ちなみに、田中宗一郎フリッパーズギターを評して「ほんとうにありえないクオリティだ。この非凡さに準ずる才能は今の日本に存在するかといったら、完全にノーだろう」と言っているんですが、これも「????」だったんですが最近フリッパーズ聞き直したり、元ネタを探したりして、おそらく、ここまで海外と同時代性がありつつ、サンプリング的に引用で音楽を組み立てて、それを一つの文脈や自分たちの思想に従っているからそれが実行できている、みたいな、そういう意味合いで言っているのかな~と感じました。